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ヘッドフォーンで音を拾って聴きたい 角松敏生「EARPLAY 〜REBIRTH-2〜」

角松敏生のニューアルバム「EARPLAY 〜REBIRTH-2〜」が、2020年5月13日にリリースされました。

当初のリリースは4月22日でしたが、新型コロナ非常事態宣言による大都市圏自粛の中、延期されての発売でした。

新たなリリースは全国的自粛の重苦しさの中でした。

その上、次々とコンサートが中止・延期と発表されていましたので、約三週間延びたわけですが、待ちわびた気持ちでニューアルバムを手に取りました。(文中敬称略)

発表されたジャケットを見て驚き、そしてニンマリ

角松敏生が自身のFacebookでニューアルバムを紹介したのが3月23日でした。

2月に行われたファンクラブ向けイベント「独演会」のMCで、「新しいアルバムを出します。今度はAORだから(笑)RIBIRTH2です。」と新作の発表を聞きました。

「RIBIRTH1」2012年に発表されたリメイクのベスト盤です。

デビュー当時の楽曲は、自らのボーカルに不満があり、今の技量でリメイクすると言うコンセプトでした。

ですから、路線は分かっていましたが、そのジャケットには度肝を抜かれると共にニンマリとしてしまいました。

1980年、キーボードのDavit FosterとギターのJay Graydon、二人のスタジオミュージシャンがユニットとして発表した「AIRPLAY」は、40年を経た今でも新鮮に聴こえる、当時生まれた「AOR」と言うジャンルの王道中の王道と言える作品です。


「EAR PLAY」のジャケットは、その「AIRPLAY」のパロディであり、リスペクトでした。

角松敏生とAssociate Producerとして参加した小林信吾。

角松敏生が、日本で俗に言う「Adult Oriented Rock」というジャンル分けを好きではないと言うことは知っていました。

その事は、「EAR PLAY」のライナーノーツに、本人も書いています。

なのに、今度は「AOR」だからと言った意味は、ただ単にミュージカル用の楽曲で構成された前回作「東京少年少女」から普通のアルバムに戻ると言うことではない、その真意がわかったような気がしました。

「EARPLAY」の意味を勝手に解釈する

40年前、もちろん今のようにインターネットにアクセスできる訳でもなく、情報を収集するのは大変な作業でした。

「AIRPLAY」がラジオ局でよく流れる音楽と言う意味で、そこから取ったのではないかと、音楽雑誌で読んだ記憶があります。

では、「EARPLAY」とは何か、それがアルバムに含まれた二つのカバー曲に表れていました。

2曲目の「Cryin’ All Night」は、「AIRPLAY」でも二番目に収録されている曲のカバーです。

5曲目の「Can’t Hide Love」は、「Earth Wind & Fire」の曲として有名ですが、このアルバムでは「Dionne Warwick」バージョンのカバーです。

なぜなら、プロデュースとギターがJay Graydon、キーボードにDavit Fosterを起用していると言う、隠れ「AIRPLAY」だからです。

この2曲を改めて聴き倒し、一つ一つの音を拾い、再現し収録したそうです。

まさに「EARPLAY」と言う事なのでしょうか?

「EARPLAY」を初めて聴いた時、2曲目の「Cryin’ All Night」が流れ出し、一瞬「あれ、シャッフルにしちゃった?」と思ったくらいでした。

洋楽への憧れが産んだ日本の音楽文化

ライナーノーツの中に「AIRPLAY」は教科書だったと書かれていますが、洋楽、特にアメリカ音楽への憧れが強かったのが、70〜80年代だったのだと思います。

「EARPLAY」による模倣と借用、俗に言うパクリなのかもしれませんが、それこそが日本の大衆音楽を作り上げてきたと言えるでしょう。

そして今や、YouTubeにアップされた角松敏生の曲には、海外の方の賛辞のコメントが並び、山下達郎などとともに「Japanese City Pop」と言うジャンルが作り上げられるに至ったのです。

「模倣から文化は生まれる」は、正しいのですね。

「EARPLAY」でリメイクされた曲は、新しい楽曲が多かったのはちょっと意外でした。

新しいと言っても、1986年〜1991年に発表されたアルバムからのチョイスなのですが、「RIBIRTH1」はそれ以前の曲が中心で、ボーカルを取り直したリメイクという意味では、その辺りが対象かと思っていました。

特に1988年リリースの「Befor The Daylight」以降は、完成度も高く、今聴いてもとても新鮮で、リメイクの必要があまり感じられません。

これまでも、さまざまな機会にリメイクはなされています。

古くは「角松敏生1981〜1987」と言う1993年リリースの初期ベストアルバムでも、多くの曲がリメイクされています。

その中でも、リメイクされていない初期の名曲が多々あり、コンサートで新しいアレンジで演奏されている曲もあります。

その辺りが選曲されるのかなと勝手に予想していたのですが、すっかり裏切られました。

そう、このオーディエンスへの裏切りこそが角松敏生の歴史であることを忘れていました。

伝統儀式とも言える紙飛行機を飛ばす曲を封印したり、演者も会場もジャンプする曲のエンディングで「飛ばないよ」と止めてみたり、ツアー千秋楽にそれまで通りにスタートしながら、「ストップ!」と止めて、全く違うセットリストにしたり、裏切るけれどそれ以上のものを魅せてくれるのが、角松イズムです。

今回の選曲は、その角松イズムを感じました。

ライブで良くやるあの曲や、一昨年のツアーで久しぶりに聴いたあの曲や、もしかしたらアイドルに提供したあの曲なんかも入っているのではと、勝手に期待を膨らませていたのですが、見事に裏切られ、そして、さらに素晴らしいものとして届けていただきました。

その裏切りも、小林信吾というキーワードを知り、納得しました。

彼がレコーディングに参加している作品が、中心になっているのです。

それだけに、小林信吾がバックで演じたことがない「CRESCENT AVENTURE」が際立ちました。

間違いなく小林信吾も「Nightflyte」は聴いていたでしょうから、楽しくプレイ出来たのではないでしょうか。

音を拾って聞く程に、角松敏生のスピリット感じる一作

長く角松敏生を聞いてきたファンには、コロナ渦の中届いた新譜に元気を貰ったことでしょう。

昔は聴いていたよと言う方にも、懐かしさと新しさを感じられる一枚になっていると思います。

新たに聴かれる方には、「RIBIRTH1」と共に聴かれることをお勧めします。

そして、できればヘッドフォーンで音量を上げて、ひとつひとつの音を拾うように聴いてみて下さい。

洋楽への憧れ、模倣と借用の中から、40年近く活動してきた角松敏生の、スピリットを感じることができると思います。

最後に、小林信吾さんの早期回復をお祈りします。

2020年10月4日、小林信吾さんはご逝去されました。素敵な音楽をたくさん届けて頂いたことを感謝致しますと共に、心よりご冥福をお祈りします。

 
   
 
 
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