アジアカップ2019準決勝、日本代表対イラン代表は良い意味で予想を覆す3-0で日本の完勝でした。後半11分、左ペナルティエリア手前で南野拓実が倒されましたがホイッスルは鳴らず、なんとそのレフェリーに5人のイランプレーヤーが抗議、その間にボールを追った南野はゴール前に入り込んだ大迫勇也にピンポイントのセンタリング。慌てて戻るイランの選手の頭の上を越えてきたボールを大迫がゴールゲット!後半18分には南野が今度は右ペナルティエリア内に入り込みセンタリングがイラン選手の手に当たりペナルティキックを得ます。VAR判定も行い、4分後の22分に大迫がゴールキーパーの逆をついて2点目。そしてアディッショナルタイムの46分、原口元気がイランのパスのこぼれを拾い、柴崎岳から南野と小さく繋いで再び原口に戻り、そのまま持ち込み試合を終わらせる3点目を決めました。これで日本は2大会ぶりに決勝へ進出、アジアカップ奪還へあと一つとなりました。
ジャパンブルーをまとったサムライブルー
日本代表のユニフォームは、この所藍色を基調にしたものが続いています。日本サッカー協会のホームページには「受け継がれる青の魂」として、歴代のユニフォームの写真があります。しかし、青が基調になったのは1992年以降で、それまでは白基調に青が入ったものがファーストユニフォームだった時も多くありましたし、赤という時もありました。赤に変えたのは日本屈指のゴールキーパーだった横山謙三監督の時です。監督退任と共に青基調に戻りましたが、横山監督の変更した胸のエンブレムを日の丸から日本サッカー協会の八咫烏に変えた事は、これまで引き継がれています。その後、広島で行われたアジアカップ時に、袖に日の丸が復活しました。これは、日の丸をつけて戦いたいと言う、選手の要望からだったと記憶しています。その後は、明るい青と藍色のユニフォームがランダムに登場します。
2002年の日韓ワールドカップの時のユニフォームは藍色でした。
日本代表のユニフォームがなぜ青なのかは、それまであまり語られていませんでした。Wikpediaにも、後付けの説明はあるが採用理由は不明とされています。後付けの説明は、青は「日本の国土を象徴する海と空の青」を表す、と言う事なのですが、2002年のとある記事に、日本のユニフォームは藍色で、藍色は色名の英語表記ではJapan Blueだと書かれていました。明治の初頭に日本を訪れたイギリス人科学者、ロバート・ウィリアム・アトキンソンが、町で数多く見られる藍染の布を見て、「ジャパンブルー」とその美しさを称賛したことから名付けられたとありました。藍染には、その染色の美しさだけではなく、細菌の増殖を防いだり、虫除けや消臭の効果もあるそうです。暮らしの知恵から、我々の先祖が使っていたのですね。日本の歴史を携えたユニフォームの色は、もちろん藍染ではありませんが、色の選択の理由に納得がいくものでした。
しかし、その後も青と藍色は混在します。それが藍色に収まったのが、2010年の南アフリカワールドカップのユニフォームからになります。
その前年に日本代表の愛称募集が募集され、「サムライブルー」が採用されました。サムライブルーと共に日本の伝統色である藍色を勝色として、ユニフォームに採用されています。藍色のさらに暗い色が褐色(かちいろ)と呼ばれていて、鎌倉時代の武将が縁起をかついで勝色として甲冑の中に着る武具に採用したと言う歴史もあります。藍染の効果も、しっかり利用されていたんですね。
ますます、日本に相応しい色となりました。
当時の記憶を辿っていろいろ調べてみましたが、現在ジャパンブルーはオリエンタルブルーに色名が変わっているようです。その理由まで調べるのは、やめておくことにしました。
「ツァンシン」とサムライ精神が感じられたイラン戦
なぜユニフォームの色の話をしたかと言うと、僕はサムライブルーと言う愛称があまり好きではありませんでした。サムライと言う言葉は、侍ジャパンとしてすでに野球が使っていたからです。バットを刀と思えば、野球の方が侍に合っている気もしますよね。もっと言えば、その昔ピッチャーが主人公ですが「侍ジャイアンツ」と言う漫画もありました。
なぜサムライブルーなのかは明らかではなさそうなのですが、では侍の精神とはどう言うものでしょう?いくつか調べた中でわかりやすかったのが、nipon.comにあった「日本人の心に息づくサムライ精神」と言う記事です。その中で、「いかなる逆境を前にしても、淡々と仕事をこなし、志を有し己に打ち勝つ人々」としています。
サムライジャパンになっても、昨年まで外国人監督なので特にサムライ精神を植え付けると言う事もなかったと思いますし、西野朗監督や森保一監督がサムライという事を植え付ける訳でもないと思います。ただ、今回、森保監督が練習で強調していた言葉があるそうです。
それは「止めるな」と言う言葉でした。練習時にラインを割っても、「続けろ!」 と声が掛かったそうです。
そこで思い出した言葉があります。それは「残心」です。
前回の東京オリンピックの時、低迷していた日本サッカー界は地元開催に向けて外国人コーチを招きました。それは、のちに日本サッカーの父と呼ばれる西ドイツのデットマール・クラマーコーチでした。
「残心」は武道で、相手に致命傷を与えても、その油断を突いて最後の反撃をされるかもしれないので、気持ちの上で備えの心を持ちその体勢を保つ事というような意味です。
ある夜のミーティングでクラマーコーチは「君たちはツァンシンという言葉を知っているか?」と当時の日本代表選手達に尋ねました。
「ツァンシン」には通訳をしていた、東京大学出身の岡野俊一郎コーチも翻訳に苦慮しました。しかし、説明を聞くうちに、第二次大戦中に剣道を学んだ岡野コーチは、それが「残心」であることに気付きます。クラーマーコーチが引用した本には「ZANSHIN」と書かれていたのでしょう。ドイツ語では「S」は濁り「Z」が濁らないので、「ツァンシン」になったのです。そして、「もう入ったと思うシュートでもポストに弾かれるかもしれないし、倒れたキーパーの足に当たるかもしれない。常に次に備えた体勢をとるべきだ。これはどのシーンでも言えることだ。日本にはこんな素晴らしい言葉があるのだから、君たちは実践してもらわなければ困る」と教えたのでした。
日本に来る外国人監督がここまで日本を調べて事に当たってくれたら素晴らしいですね。
森保監督が「残心」のエピソードを知っているかどうかはわかりませんが、クラマーコーチの教えは日本サッカーに浸透しています。森保監督の中にも、日本サッカーのDNAとして刷り込まれていても不思議ではありませんし、彼のプレーを思い起こせば、そのようなプレーをしていたと思います。
それがあの南野のプレーを生み出し、大迫の先制ゴールに結びついたのではないでしょうか?森保監督は何が起こるかわからない「中東の笛」にも備えて、「やめるな」と言い続けていたのでしょうが、あのゴールを見た時に、僕の中にクラーマーコーチの教え「残心」が、蘇ってきました。この「残心」と「いかなる逆境を前にしても、淡々と仕事をこなし、志を有し己に打ち勝つ人々」が重なり合い、そんな意図があって名付けられたとも思いませんが、サムライブルーと言う愛称が僕の心の中に、これが日本のサッカーだと結びついた試合でした。
試合を決めたチームの品格
戦術の細かい分析はプロの方がなさるでしょうから、僕はあくまでもファン目線での感想ですが、今回の試合ではチームの持つ品格の差が試合に大きく現れたと思います。
戦術的に日本が引き出した面もあるのかもしれませんが、「残心」だけでなく「協調性」「献身性」「責任感」「団結力」など、日本のテクニックを引き立てる精神的な強みが、イランを圧倒したと思います。それらは、冨安や堂安という二十歳の選手が入っても薄れないものでした。これは、育成年代から一貫して育ててきたものと思います。日本のサッカーの持つ品格が、イランを大幅に上回ったと言える試合でした。
パスを繋ぐとか、ボール保持を高めるとか、相手に攻めさせるなど、戦い方は色々とあると思いますが、相手をしっかり分析して良さを消し、日本の良さを引き出す闘い方をチーム全体で遂行していく、それが日本のサッカーだと思います。ロシアワールドカップでも見せた闘い方でした。そして、さらにアジアの中ではきちんと成果を導き出すという部分に、森保監督は取り組んでいると感じました。
残念だったイラン代表
前回のベトナム戦の後の記事にも書きましたが。今回のアジアカップ、日本は世代交代した代表が経験を積み上げながら優勝すると言う位置づけかと思います。一方、イランはカルロス・ケイロス監督の元、8年間を戦った集大成として臨んでいます。そのチーム力に対抗できるかは試合の鍵と思って見ていました。
結果は、意外にもイランは脆かったですね。日本の先制点のシーンを日本側は「残心」として書きましたが、ファールの笛を吹いていないのに5人もの選手がレフェリーに詰め寄るセルフジャッジのシーンは見たこともありません。テレビの音声に笛が入らなかったのかなと思って見ていたら、南野が立ち上がってボールを追います。その時点でゴール前はガラ空きです。
前半から日本のプレスに悩まされ、上手くいってなかったフラストレーションが、どれだけのものなのかが伝わってきました。
大迫が後ろから頭にバッティングを喰らって倒れると、日本ボールでしたがレフェリーは試合を止めました。試合再開のレフェリーボールに日本は立ち会わず、礼儀的にイランがボールを返すものと思っていたら、そのままボールを保持して攻め込んできました。もちろん、日本はそれにも対応していましたが、追い込まれた度合いが、更に深まっているのがわかります。そして、原口の3点目が決まったキックオフで、イランのエースのアズムンが大迫の足を踏み、ゴール前のもみ合いでは柴崎に平手打ちをします。ロシアのクラブで定着してないのは、メンタル面の弱さが原因かもしれないですね。
この大会で契約が終わると噂されるカルロス・ケイロス監督ですが、彼の集大成がこのレベルだったのかと言うのは、とても残念です。それはカルロス・ケイロス監督自身が、感じていることかもしれません。確かに、勝敗の積み重ねによるFIFAランキングは上ですが、選手やチームの品格までランキングには投影されていないと言う事ですね。
ウルっときた原口元気のゴール
個人的感想ですが、原口の3点目は長く彼を見て来たものとしては、彼らしい、小さなフェイントで裏を取り抜け出す、何度も同じようなシーンを見たゴールでした。僕が原口を初めて見たのはジュニアユース、中学生の頃です。小学校の頃からの逸材ですから、僕より長く見ている人は、埼玉にはたくさんいると思います。僕自身としては中学の頃から見ている選手と言うのは、それまでもあまり無かったので、トップチームに入りドイツに行き日本代表にも選ばれロシアワールドカップでのゴールを奪ったその成長はとても嬉しかったです。しかし、イラン戦の駄目押しは勝利を確実にするゴールでもあり、一段と嬉しかったです。パスのこぼれを拾う守備から入った所は彼の成長です。そして、ゴールを決めてもニコリともせずに気合いを入れ直す頼もしさも嬉しいですね。
BSの「原口!原口!原口ーーーーーっ!」と言う実況も素晴らしい。後半45分からの2分間は、ヘビーローテーションしてます。
今度は5人抜いて、5回は名前を連呼されるようにやって欲しいなぁ。
カタールとの決勝戦
決勝はカタールとの戦いとなります。
日本はこの大会で最大の7試合を戦う事が出来たのは、まず一つの成果だと思います。そしてここまで来たのであれば、カタールを破ってアジアカップ奪還をしたいですね。絶対勝たなければならない試合を3試合勝って来たのですから、もうひとつ積み上げたいです。
カタールは、以前浦和レッズ等に所属していたエメルソンも国籍を獲得している、帰化選手が多い国です。もちろん、日本もネルソン吉村を筆頭に、ラモス瑠偉や呂比須、サントス・アレッサンドロや闘莉王とブラジルの帰化選手が代表となり、日本の為に戦ってくれました。昨今、そうした選手がいない事は、日本のレベルが全体的に上がり、帰化しても良いと言う選手のレベルに見合わなくなって来たとも言えるのかなと思います。そうした面で、サッカー全体のレベルは、まだまだ日本が高いと言えるでしょうが、一発勝負は油断禁物です。
僕が自分の中で勝手に盛り上がってるだけかもしれませんが、「サムライブルー」の精神の元に戦い、勝利を収めて欲しいと思います。
そして、今一度、日本らしいサッカーを見せて欲しいと思います。
決勝戦を戦う日本代表サムライブルーを応援しましょう!
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